無能日記

わらを編んで生活しています。

たどり着かない者たちと桜の夜

午後6時。私と息子は、まだ明るさの残る駅前のタクシー乗り場で途方にくれていた。

 

待ち合わせは4時半。車で迎えに来てもらう予定だったが、「間に合わないからタクシーで勝手に行きます」ということにした。

乗り場にタクシーはいない。アプリで呼んでも電話で呼んでもつかまらない。タクシーどころか車も通らないし、コンビニもない。歩いている人もいない。

 

「歩いて行こうか。タクシーがいたら乗ろう。」

 

泊り用の荷物といっぱいの手ぬぐいをかかえ、歩き出す親子。

甘かった。駅から離れても人も車も店もなく、山があるだけ。

あたりはどんどん暗くなっていく。

 

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不安な気持ちから写真もピンボケに。

 

それでも夜の散歩は楽しい。「夜のピクニック」(恩田陸著)みたい。

私たちは落語家であるパパの顔が怖すぎるけど大丈夫なのか、中学校の部活は何にするかなど、どうでもいいことを話しながら歩いた。

しかし、道案内アプリの表示する道が途切れていたり、暗くて歩けない土手を指示されて周り道をしたり。本当にたどり着けるのか心配になってきた。

 

計画性のなさとぶち当たるトンネル

線路の下のトンネル、それも3つ目が見えてきた。それまでのものより長く、明かりはない。

6年生になる息子が

「僕が先に行って様子をみてくるね!」

と元気よく走りだし…などということはなく、私たちは

「あんまり長かったらあきらめて家に帰ろう」

と誰にも見つからないよう小さな声で話し合い、手をつないだ。

 

〝無理かもしれない〟という考えが浮かんで、私はようやく後悔した。

遅刻の理由はこうだ。

デザイン提出の締め切りがあったので、家を出るのが遅れた。

その前の日はなにか別の締め切りがあった。

その前の日は…なんだっけ。

 

子供が原因で〝スケジュールが狂う〟という人が多いが、息子は朝のうちに支度をすませ、私を待つ間ずっとTVアニメ「転生したらスライムだった件」を観ていた。

すべて私が悪い。

迎えに来てくれる人がいるのに、〝勝手に〟向かうという奢りもある。

最近読んだ本にこう書かれていた。

 

お金が貯まる人の絶対条件は「計画性があるかどうか」です。
お金が貯まるのは、どっち!?(菅井敏之著)より引用

お金が貯まるのは、どっち!?

お金が貯まるのは、どっち!?

 

 

私は計画性をどこに落としてしまったのだろう。

夏休みの宿題は8月31日に徹夜でやっていたし、辞職の辞令をもらうときにも遅刻、飛行機に乗り遅れたことももちろんある。〝夏の予定は?〟と聞かれても、(そんな先、生きてるかどうかも分からないのに?)と思ってしまう。

 

生存は維持しているものの、明らかな計画性の欠如。

そもそも、〝お金が貯まらない〟人種だったんだ……。

 

夜道に輝く落語会

「クズでごめんね。」

「いいよ。」

トンネルを抜け、地下道をくぐり、車がたくさん走っている道に出た。

「もし宇宙人が来たら、車のことを生物だと思うかもしれないね。」

車も民家もあるけれど人の姿は見えないので、世界ふたりぼっち(内1名はお金が貯まらない属性)。

突然、落語会の会場であるおしゃれな建物が見えた。

「パパが落語してるよ!」

着物で座布団に座りわ~きゃ~している羽光さんが、外からでもぼんやりと見えた。

 

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遅刻をする人間はよくSNSで叩かれているし、人に迷惑をかけるのはよくない。

これからは「5分前行動」と心の壁に貼って生きていこうと思う。(あわよくばお金も貯めたい。)

 

落語会に向かっている途中、歩いていたらふいに、桜の道があらわれた。

ライトアップされているけれど、誰もいないので、貸し切り。

 

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準備してお花見に行くのもいいけれど、突然の桜も素敵だ。それも、夜桜。

私はきっと、宇宙旅行には行けないだろう。

行き先の分からない路線バスに飛び乗ったり、迷いながらの散歩は、これからもできるかもしれない。ならばそこにある普通の風景を、たくさん見たい。

 

※会場の寄席バッソさんは、ふつうに行けばそんな大変なことにはならず、私どもが道案内アプリの使い方がよく分かっていなかったためなかなかたどり着かなかっただけです。