「そんなこと」という言葉が苦手
ふだん何気なく使う「そんなこと」という言葉。
“言われる”側と“言う”側、どちらが多いですか?
私は、言われることが多いです。
「そんなことまでするんだ?」
「そんなことしなくていいんじゃない?」
「そんなことするくらいなら……」
たぶん、言っている方に悪気はない。でも私は(また余計なことをしてしまったんだな……)とネガティブに受け取ってしまいます。
というのも、私はいつも余計なことをしてしまうから。
・マスクを手作りしたい→ミシンを使う場所がほしい→ミシン台をDIY
・遅刻癖があるけど遅刻できない→前夜から待ち合わせ場所の前で待機
・面白かった漫画の作者に感想を知らせたい→メールを送って結婚
などなど。良くいえば「行動力がある」ですが、「斜め後ろの方向に全力で走っていく性質が強い」ともいえます。その自覚があるので(無駄なことをしてバカだなって思われてる! 実際バカだし! もうダメだ!!!)と自虐的になってしまうんですね。
では、「そんなこと」がポジティブに使われることはないのでしょうか?
たとえばこんな場合。
人気のケーキを予約、購入してお土産に持参したところ
「そんなことまでしてくれて、ありがとう!」
と喜んでもらえました。
この場合の「そんなこと」も、“本来やらなくていいこと”を意味するのは同じですが、ポジティブなイメージで使われています。ラーメンの替え玉無料キャンペーンのような、お得な“余分”。でも、関係性によっては(そんなことわざわざしてくれなくてもいいのに……)とネガティブな意味になることもあります。
「そんなこと」とはただの言葉で、受け取り方によってポジティブにもネガティブにもなる……?
「あんなこと」「こんなこと」「そんなこと」
ここで、「ドラえもんのうた」を思い出してみましょう。
歌詞に「あんなこと」や「こんなゆめ」は出てきますが、「そんな」は出てきません。ドラえもんが「そんなゆめ」と歌っていたらなんだかイヤです。
「そんなヒロシに騙されて」という曲もあります。“そんな”だけで「甘い言葉をささやく軽いけど魅力的な男性」というイメージが伝わってくる、見事な表現だと思います。
やはり、「そんなこと」はネガティブなイメージと結びつきやすいようです。
「そんなこと」は自分から距離が遠い
「あんなこと」「こんなこと」「そんなこと」のちがいは、「あ」「こ」「そ」。この3つのちがいを知れば、「そんなこと」からネガティブなイメージが生まれる理由がわかるかもしれません。
「あれ」「これ」「それ」の使い分けについて、東京外国語大学言語モジュールには、
話し手の周囲の領域のものは「これ」、聞き手側の領域のものは「それ」、両方から遠い領域のものは「あれ」でさします。
とあります。(東京外国語大学言語モジュールより引用)
「あんなこと」「こんなこと」「そんなこと」に当てはめると、「そんなこと」は自分からは遠く、相手に近い場合に使うということになります。
相手はなにか意図があってやってるんだろうけれども、こちらからは“意味がわからない”“ぼんやりして全体像がつかめない”というイメージが、「そんなこと」には含まれているようです。
ということは、距離が近くなれば「そんなこと」が「こんなことに」に変わることもあるはず。
「そんなこと」は「こんなことに」になるかもしれない
母は、私以上にまわりから「そんなことを!」と責められるタイプの人間です。あるとき急に「お店がやりたいわ~」と言い出し、周囲は
「なんでそんなことを! 大変すぎる!!」
と猛反対したのですが、勝手に大家さんと交渉をはじめ、お店をはじめました。3年後、80歳を目前にした今、自分のお店である駄菓子屋さんを持っています。それは小さいながらも素敵なお店で、巻き込まれた私にとっても今ではとても大切なお店です。私にとって、「そんなこと」が「こんなこと」になりました。
「そんなことできるはずないな」
「そんなことしたくない」
と思うことはよくあることで、それは正しい判断であることが多いです。軽率に変なことをはじめて大変なことになることが多い私には、その実感が強くあります。
でも、「そんなこと」が自分との距離に由来すると知っていれば、敬遠している「そんなこと」を“やってみようかな”となることも、きっとある。
自分には無理だと思いこんでいても、はじめた人間から「こんなことすぐできるよ」と言われることもあります。それは、能力の問題ではなく、距離がちがうから。自分から距離を置かず近づいていけば、「そんなこと」が「こんなこと」に変わることもあるかもしれませんよね。
知らんけど。
あなたの「そんなこと」は、どんなことですか?