無能日記

わらを編んで生活しています。

田舎育ちは「虫嫌い」にならない?

福井県池田町の「池田暮らしの七か条」が炎上しました。

SNSには「田舎の嫌なところが凝縮されている」「あらかじめ宣言してくれたから、移住の候補から外せてありがたい」などの声が。「都会風を吹かさない」など、七か条のキャッチーな言葉は注目を集めましたが、よく見ると、それほど突飛なことは言っていないのでは?とも思いました。

実際、田舎暮らしにめんどくさいことは多いです。

田舎暮らしはめんどくさいし、虫もいる

限界集落移住をやめたYouTube動画も伸びていましたし、田舎のクソさに対し、不安や憎しみを抱く人は多いようです。でも、一方で「老後は田舎でのんびり暮らしたい」「子どもを田舎でのびのび育てたい」という人もたくさんいます。

私もその口で、息子が4歳の時、東京から静岡県三島市に移住しました。東京からも近い便利な地で、田舎というより里山ですが、いつも緑と鳥の声に囲まれ、近くの川には蛍が飛んでいます。

当然予期せぬ虫に出会うことも多く、虫との戦いは日常茶飯事。

そして先日、こんな研究を見つけました。

虫嫌いの背景には、病原体の感染を避けようとする過去の進化的圧力によって形成された心理的カニズムがあり、それが都市化によって強化されていることが示唆されました

なぜ現代人には虫嫌いが多いのか? ―進化心理学に基づいた新仮説の提案と検証― | 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部

田舎に住んでる人は虫に慣れている。それは、多くの人がなんとなく感じていることかと思います。それがリサーチにより明らかにされ、進化心理学により原因が提示されました。「面白い研究」としてSNSでもよく言及されています。

ざっくりまとめるとこんな感じ。

  • 田舎の人は都会の人より虫の種類を判別できる
  • 虫に対する知識があると、虫への恐れは軽減される
  • 同じ虫でも自然の中で見るより屋内で見る方が恐怖が強い

知らない虫は怖い。でも、知っていたら?

研究結果に、非常にわかりみがありました。というのも、移住してすぐの頃、息子の布団の上にゲジゲジが落ちてきたことがあります。初めて見たゲジゲジの姿に私は恐怖し、「絶対に殺さなくてはいけない」と思ったことを覚えています。

その事件以降、私はネットでゲジゲジやムカデについて検索するように。戦わなくてはいけないと思ったからです。そして私と同じようにゲジゲジに悲鳴をあげている人や、ムカデに驚いたことで起きた高速道路での死亡事故についても知りました。

でも、同時にムカデやヤスデの美しさに惚れ込んでいる人がいることや、ゲジゲジがゴキブリを捕食する益虫?であることも知りました。そしてなにが起こったのかというと……。

はじめて見た時、あんなに恐ろしいと思ったゲジゲジが、それほど怖くなくなったのです。向こうからしたらこちらの方が、勝手に家に住んでるキモい生物かもしれません。いつ見てもキモいなとは思っていますが、その感情を見つめ直すために「ゲジ美とムカ夫」という漫画を描いて、トートバッグも販売しています。

虫への経験値は、田舎暮らしのアドバンテージになる

虫を無理に好きになる必要はないけれど、知ることで気持ちが変わったり、なにか良い変化があるかもしれません。例えば生物多様性への理解が進むといったことです。そして、「虫嫌い」と「田舎暮らし」の関連性が可視化されたことで、田舎暮らしのメリットの一つが明らかになったとも思います

もちろん都会にも虫博士の子どもはたくさんいますし、昆虫館などで観察もできます。でも、田舎や里山で好きでもないのに虫を目にしてしまう環境は、経験として広く潜在意識に影響を及ぼしているはず。田舎暮らしで虫を目にすることはデメリットでもありますが、子どもの視野を広げる可能性があるということです

そしてそれは、虫以外でも起こりうるのではないでしょうか。

田舎のクソさと多様性への理解

田舎暮らしには変な虫がいるだけではく、多くのクソ現象があります。フードデリバリーのドライバーはいませんし、老人は毎日行方不明になります。家も汚れやすく、自転車がすぐに錆だらけになるといった時空の歪みまであります。

でも、公立校が主流だといろんなタイプの子どもがいっしょに育つことになります。無人販売でみかんが買えます。バスが来なくても驚きません。クソさの全てが、「まあこんなもんか」というゆるさにつながります。それは、アクシデントに対する強さ、多様性への理解につながるのではないでしょうか。

もちろん、田舎暮らしには文化的刺激が足りないなどのデメリットはあります。不便や間違っていることは正していくべきです。でも、クソはクソで、結果的に何かの役に立つこともあるのだなと思った次第です。クソだけに。